♯4 ミッションインポッシブル:ウォータークローゼット



「トイレの水が止まらん!」


そう気づいたのはトイレから出て、30分後。


長くね? と思ったアナタ、違うんです。

今住んでる家、トイレが古いので、
水が溜まるのに5分は平気でかかるんです。

ちょうどシャワーを浴びようとしていたので
「出る頃には止まるやろ……」
なんて呑気に考え、ひとっ風呂。


出た。まだ出とるやん。
え。なんで? どしたん?
哀しいことでもあったん?

髪を拭きながら独り言。
僕は普段から独り言をよく言う。


全裸のまま、トイレの流水のノブを下げてみた。


あら? ノブが下りんのじゃ~


ノブっぽくノブにツッコんだ。
もちろん笑う者はいない。独り言だもの。

何かに引っ掛かっているのか、
下までノブが下がってくれないのだ。

水はタンクへ注がれ続けている。
じょぼじょぼと仕事してるアピールをしている。


大切なことがひとつ。

実はこのとき、
あと15分後には家を出なければならなかった。

しかも関西へ行くので、
数日は家に戻れなかった。


出しっぱはヤバくね? 水道代……。
でも、ちゃんと説明したら減額してくれるって聞いたことがあるぞ。
でもなぁ……――


と、全裸で独り問答。

例え減額してくれると言っても、
次の検針のときには減額前の料金表が届く可能性があるわけで、

引っ越しを目前にひかえた金なし演劇人の目に、高額の請求書は何よりも見たくないものだった。


タンクの蓋を外してみた。
なんっっっっもわからん。汚ぇことしかわからん。

あっ! 気づいたらタンク上部の蛇口に繋がっていた管が抜けて床が水浸しだぁーッ!!

戻せ戻せぇ!!

くっ……コイツ、とんだワガママちゃんだ……
埒が明かねぇぜ……



依然、千鳥ノブは下がらん。水は止まらん。

とりあえず、電話を掛けた。水道局へ。

電話を掛けたという記録があれば、
いざというときの証拠になるだろう、と

外出10分前の小賢しさが谷風作らしかった。


けっこー待たされるかと思ったが、
ほんの数コールで出た。

すげぇ!!
セ○○カードのコールセンターとは
ワケが違うぜ!!

このまま民営化せずによろしく!!


なんて思ったかは覚えてないが、
ひとまず女性の担当者が出た。

自然と僕の声も柔らかくなる。


あのぉ……、トイレのタンクの水が
止まらなくてぇ……かくかくしかじか


事態を把握した女性。
まずは妥当と言える解決策を、


トイレの元栓をマイナスドライバーで
閉めていただきますと――


もち、すでに試していた。もち。

マイナスドライバーでも10円硬貨でも
びくともしなかった。

古い家だからね、栓が固まってしまっていたんだね。

おかげで、もう自販機入らないよこの10円玉。


少し悩んだ女性。

建物の外に元栓がありますので、
そこを閉めていただくしか……――

おぅマジか。あと7分で外出やで、ベイベー。


てっきり遠隔で止められると思っていた僕は、
「あぅーそうですかー」なんて言いながら
外へ出ていた気がする。

この時点でかなり頭真っ白。
なぜか走馬灯。じゃまじゃま。

暑さの汗と冷や汗が混じり、
ぬるい汗になっている。


担当者の女性、僕が伝えた住所から
止水栓の場所を割り出してくれた。


下の方に長方形のメーターがありませんか?


あーん、マジか。
今から ミッケ! 始まるんか。
猶予幾ばくとないやで。


僕はお姉さんの優しい声に導かれ、
外をうろうろした。

まさかお姉さん、
僕が小便漏れそうな人間並みに
焦りきっているということには気づくまい。

はあ!? 電気メーターとガスメーターしかないんですけどぉ!? 

みたいなことを冷静に優しく伝えた。

その後も手をかえ品をかえ、
優しくエスコートしてくれるお姉さん。

ごめんなさい。
もっと時間に余裕があるときに
アナタと出逢いたかった……。


僕の目が節穴なのか、結局見つからず。
お姉さんは手をあげて降参。

担当の者に変わります……( >_< )

とのこと。担当者多いな。
みんな担当してくれて、ありがとぉなぁ↑↑


一度電話を切ってお待ちいただけますか?


あ、ぼちぼち掛かるやつやん。
はいィー……とか言って切った気がする。


ダッシュで部屋へ戻り、
汗だくで外出の準備をする。

端から見たらゴジラから逃げようとする
一般人Aだったろうな。蒲田近いしね。


結局、外出時間。電話来ず。

仕方ねえ。すまんね、お姉さん。

と思いながら外へ出た。
100メートルくらい離れたところで電話。


オイオイと、家へ戻りながら電話に出る。

今度は違う担当者。でもお姉さん。いいね。
自然と優しい声になる。

改めて、止水栓の場所の説明を受ける。
さすが、担当が変わるたび説明の細かさが上がっていく。
驚きのレベルアップ方式であった。



あっ!!あった!!!!!!


地面にマンホールの四角いver. みたいな
コゲ茶に錆びた蓋があるではないか。

さっきのお姉ちゃんはこれのことを
言ってたのね!??

僕と先刻お姉さんの決定的なディスコミュニケーションを自覚する。


はしゃぐ気持ちを80%抑え、
2割で喜びを伝えた。

ありましたァ!?

と少し嬉しそうな新お姉さん。


しかし、蓋は4つあった。どれや。

電話の向こうで調べている様子のお姉さん。


えー……? これはどういうことォ……?


なんて悩んでいる。ちょっと和んだ。
しかし、タイム イズ アップ。

可愛らしいお姉さん、
話したい気持ちは山々。
でも遅刻したら中々、
キツいって気持ちあるかな アーイ♪

って感じ。
ファンキーなモンキーと電話先のベイビーズ。

僕は駆け足で駅に向かいながら
「たぶん2番目です、3番目かな、2番目?」
と独り問答しているお姉さんに、

今ちょっと時間なくて蓋のそば離れちゃったんで、
メモしながら聞いてもいいですか??

とメモする気もなく聞いた。


あ。わかりました。

と答えたお姉さん、続けざまに

蓋を開けましたら金属の縁に番号があるんですが、
谷さんのお部屋の番号お伝えしますね?

と言う。おぅ、メモいるやん。でも走っとるからな。


お願いします!!!


と僕。んなもん、台詞を覚えるより簡単じゃ!!
お姉さんは息の荒い僕をよそに淡々と伝える。


では、いきますね。
XX-XXXXXX(Xはバラバラな数字)


オワーッ、そんな長いんか。
ま、ええわ。覚えたやろ。

と思いつつ、お姉さんに感謝を告げ電話を切った。


数字は電話を切った直後にメモした。
スマホのメモ帳に。たぶん、合ってる、はず……。
ハラショー短期記憶。


電車にも間に合いました。
今、その車内で書いてます。


これが僕のミッションインポッシブル。
サブタイトルは、ウォータークローゼット。

“MI: WC”という略称になる。


サイモン・ペグのような可愛らしい担当者の指示に導かれながら、止水栓を探した僕はさながら、離陸した航空機に掴まりながら「オープン ダッ ドーッ」と叫ぶトル・クルーズでした。

とんだ朝でしたが、
これ以上悪いことは起こらないでしょう。

帰ったらトイレどうしようね……( >_< )

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谷 風作 ( Fūsaku Tani )

調理器具としての僕