♯1 車は僕のヒーロー

洗車マシンって、それを提供するガソリンスタンドによっては、使用中は外に出るように言われることがあった気がする(が、記憶は不確かだ)。

だから僕にとって洗車マシンの稼働中に車内にいることは、生まれて初めて徹夜をしたときと同じくらいの背徳感とスリルがあった。


心を失ったモリゾーのような風体のブラシが横倒しに回転し、車の輪郭をなぞるように磨く。
歌舞伎の連獅子を彷彿とさせるその豪快な回転から、ひどく繊細な洗車作業が黙々と行われる。

一見超攻撃的なブラシの襲撃に対して、僕は車を鎧にして、それを安寧とともに眺めることができるのだ。


これに興奮しないことができるだろうか?
いや当時の僕にはできなかった。

『戦隊もの』『仮面ライダー』『ウルトラマン』『働く車』が好きだったリトル風作は、どんなにゲームボーイが楽しくても、洗車のときだけは窓の外へ目玉を貼りつけて、コの字型マシンの往来を見つめていたとさ。

0コメント

  • 1000 / 1000

谷 風作 ( Fūsaku Tani )

調理器具としての僕